メンテナンス契約(保守契約)のリスク管理

メンテナンス契約書

次の事例に基づいて「メンテナンス契約において発生しうるリスク」特に「損害賠償請求リスク」をどのようにコントロールしていったらいいかについて検討してみます。

【事例】

自社が納入した「顧客の製品(例えば半導体や食料品等)の製造ラインの一部」を構成する設備(以下本設備)のメンテナンス契約を締結した。本設備のメンテナンスにミスがあって製造ラインを停止させてしまった。顧客側からは、製造ラインの復旧責任および製造ライン停止に起因して生じた損害賠償責任の追及を受ける可能性のある状況にある。
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考えられる損害賠償請求の内容

ここでは、次の2つの損害賠償請求がなされた場合について検討してみます。

(1)製造ラインの「復旧」にかかった費用
(2)製造ライン停止により失った利益の賠償

以下、順番に見ていきたいと思います。

(1)製造ラインの「復旧」にかかった費用

まず、(1)については、自社が行ったメンテナンスのミスと顧客の製造ラインの停止に相当因果関係が認められるのであれば、自社の責任と費用負担により、その製造ラインを正常な状態に復旧させる義務を負うことは言わば当然のことと言えます。

正常な状態に復旧させただけで収まれば問題ないのですが、それに加えて、顧客から損害賠償請求される場合があります。

顧客からの請求内容が合理的な範囲にとどまるものであれば問題ないのですが、それを超える請求がされた場合には、たとえ自社のメンテナンスのミスに起因して生じた損害と解釈できるものであったとしても、なんとか抵抗し、押し返していきたいところです。

ここでは、次の2つの請求がされた場合を考えてみます。

1)外注費・出張費・産廃費用(請求書等の証憑あり)
2)人件費(社員が同復旧に掛けた人件費。時給換算の単価の明記あり)

1)は、請求書等の「証憑」によって、自社のメンテナンスのミスがなければ生じていない「エクストラの費用」が実際に生じたことを確認できますので、いわゆる「実損」の補填として、自社での負担を検討すべきものになります。

一方、2)の「人件費」については、その内容次第では、賠償請求の範囲から外してほしいという交渉ができるところです。

人件費の中でも、いわゆる「社内人件費」については、自社のメンテナンスのミスがあってもなくても生じる「労務費」にすぎませんので、「エクストラの費用」の発生がないという理由から、基本的には賠償請求の範囲から外してほしいという交渉が可能なところです。

もっとも、自社のメンテナンスのミスにより生じた残業代であることの明確な証明があったり、本来は外注して対応すべき処理を自社の別部門のメンバーをかりだして対応したといった合理的な説明がある場合は、そうした交渉は難しいかもしれません。

人件費についての賠償請求については、簡単に受け入れてしまうのではなく、より詳しい内訳を入手することで、自社が支払うべき「実損」が顧客に生じているか否かの検証を行うべきであると考えます。

なお、上記の「実損」については、自社が付保する「損害保険」で対応できる場合も多いといえます。保険は、契約では回避しえないリスクを補填できるツールとして積極的に検討すべきです。私自身は、日系の損害保険会社よりも、外資系の損害保険会社の方が、保険認定等において使い勝手がいいと感じています(損害保険を利用したリスク回避については、項目を分けて検討したいと思います)。

(2)製造ライン停止により失った利益の賠償

次に(2)の「逸失利益」についてですが、こちらについては前述の「実損」とは異なり、いわゆる「計算上の損害」に過ぎませんので、いまだ現実化していない損害であるといえます。

そもそも、製造ラインがストップするような事故があった場合であっても、顧客は、そのストップによる損害をそのまま放置するようなことはありません。期中の利益が落ち込まないよう残業などで「挽回」するはずです。失った利益をどの範囲で見るかという議論はあるものの、少なくとも期中の利益が自社のメンテナンスのミスにより減少したか否かは期末になってみないとわからないことですし、そもそもその利益の減少が当該ミスにより生じたものであることの証明も極めて難しいといえます。

顧客側ではそうした「挽回」の手法が残されている一方、メンテナンスを請け負う側にはそれがありませんので、メンテナンスの対価を見直すか、別途保険を付保するかといった手法を取らざるを得ませんが、それでは、顧客側としても、せっかくアウトソーシングで得ようとしたコスト面でのメリットが得られないことになりますので、受け入れがたい提案となってしまいます。

以上の理由から、逸失利益というリスクについては、そのコントロールが可能な顧客側で負担してもらうのが合理的であるといえます。

リスクの分担によるコストの低減という観点から、顧客の理解を求めていくことが重要かと考えます。

もっとも、そうしたリスクの分担については、実際に損害が生じてしまったときではなく、あらかじめメンテナンス契約書の中で「逸失利益の免責」をはっきり定めておいた方がよいと思われます。

この「逸失利益の免責」に関する条項については、上のようなリスクの分担によるコストの低減という考え方が各社に浸透してきたせいか、受け入れを拒絶する顧客はほぼありませんし、そもそも真正面から逸失利益の賠償請求をしてくる顧客も少なくなりました。

とはいえ、メンテナンス契約書の中で逸失利益の請求について何も触れないのは、顧客の製造ラインのメンテナンスというリスクの高い業務を請け負う上では不安が残りますので、メンテナンスを受注する事業者としては「逸失利益の免責」に関する条項を必ず追記するようにしたいところです。

本項については、以上のとおりです。

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