法務という仕事のネイチャー

法務に求められるもの

法務の仕事は、いわゆる「課題先行型」に分類されると思われます。

黙っていても仕事がもらえるという点で、営業の仕事のような「好奇心駆動型」の仕事より楽な面もありますが、それに甘えていては会社への十分な貢献にはならない、という話をここではしてみたいと思います。

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課題先行型の仕事とは?

課題先行型の仕事とは次のように定義されます。

課題先行型の仕事は、課題が先に与えられ、これを全力で解くというのが仕事の中心になります。(中略)顧客があって、この顧客から投げかけられる様々な問題・課題の解決を支援する、という仕事です。

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法務の仕事は、営業や技術から契約や取引に関する様々な相談が持ち込まれ、この相談の課題を明確化し、その解決を支援するという、まさに課題先行型の仕事であると考えています。

ただ、後に記すとおり、こうした法務の仕事のネイチャーに甘えていては会社への十分な貢献はできないと考えます。

営業の仕事との大きな違いは?

私は新卒で入社した企業では営業を担当していましたが、基本的に新規顧客の開拓という仕事でしたので、既存の顧客から課題を投げかけてもらえるという機会はほとんどありませんでした。

顧客を訪問する前に、その顧客において課題となりそうな問題を「想定」して簡単な提案書を作りプレゼンしてみる、といったことを日々やっていました。

これがうまくハマればいいのですが、そう簡単にはいきません。顧客から「検討しておきます」と言われてなしのつぶてになるのがほとんどでした。

一方、法務の仕事は、既存の顧客(=役員や従業員)はすでに確保されていて、その顧客からどんどん仕事がもらえます。

法務へ転職して間もなく、営業時代に感じたシンドさから解放されたことに気づき、当初はこれに甘え、現場から持ち込まれる相談案件を次から次へとこなすことで、仕事をしている気分になっていました。

法務部員が陥りがちなことは?

それから1年ほど経過したとき、上司から次のようなことを言われました。

「相談に対応することは単なるルーチンの作業でしかないよ」

「このままだとずっと停滞したままになるよ」

これを言われた当初は、その意味合いがよくわかりませんでした。ただ、自分が今停滞している状態であるとの評価が下されたわけですから、大変ショックだったのを覚えています。

法務の仕事は、現場から持ち込まれる相談への対応であると考えていましたし、ある意味それが全てと考えていました。実際、法務へ相談される事案は現場だけでは解決が難しい複雑な問題ですから、それに対する解決策を提案できれば、それだけで十分意義ある仕事ができているはずだ、と感じていたというのが正直なところです。

上司において、私の仕事っぷりの何が不満だったのでしょうか。

課題先行型の法務において求められることは?

上のような指摘を受けて、当時は大変悩みました。

よく「自分から仕事を取りに行け」ということを言われることがあります。特に営業を担当しているときは、よくこうしたことを言われました。

当初はこうした「取りに行く」という意識が足りないのかと思い、用もないのに営業フロアをウロウロしたり、声掛けをしたりと、まさに営業のような動きをしてみたりもしましたが、これは上司が感じていることの解決になるとは思えませんでした。現場に対して「何か法務への相談はありませんか?」と勧誘して回り、相談件数を増やす、というのは明らかに違うと思います(というか、これは営業にとって邪魔でしかありません)。

上司を注意深く観察していれば、その答えが見つかるかもしれないと思い、自分とは異なる動き方などがないかという目でその動きを見ていましたが、すでに管理職のポジションにいる人の動きからは、一担当である自分の仕事の解決に直接つながるものを見出すことはできませんでした。また、評価の高い同僚の動きを見ていても、そのヒントにつながるものは見出せずにいました。

その指摘に対する答えを自分なりに見出すことができたのは、今の会社に移ってからだったと思います。

一言でいえば「受け身」の仕事だけではダメだ、ということです。

きっかけは「受け身」であったとしても、そこから当該事業に共通する問題や課題を導き出し、抜本的な問題解決につなげるという動きがほしい、ということだったのではないかと思われます。

元の会社は、いわゆる成熟企業で、その問題や課題の多くが既に解決済みであったように思います。組織改革も社内規程もビジネススキームも最適化が図られ、その中で従業員は安心して事業を進められるという雰囲気がありました。

私自身もそうした雰囲気に飲み込まれ、日々の相談に熱心に応じていればそれで十分という意識を持ってしまっていたように思われます。

安定し完成した大きな組織の中でヌクヌクと個別の相談に終始するだけで、新たな問題や課題への気づきや、その解決策の提案といった動きが一向に見られない私に対して、上司達はイライラしていたのでしょう。まだまだ解決すべき問題や課題があるのに、こいつは全くそれを指摘してこないなということろかと思われます。

その後、今の会社へ移って、私の意識は変わりました。

今の会社も、戦後から続く名門企業ではあるのですが、元の会社に比べれば企業規模は小さく、また「実績連動性」の給与体系を採用している企業ですので、より高い報酬を得るためには、より多くの利益を確保する必要があります。

より多くの利益を健全に確保していくためには、利益を生むための新たなスキームと、キャッシュアウトの最小化を常に意識して仕事に取り組む必要があります。

そうした意識をもって相談に取り組んでいると、それまで見えなかった多くの課題や問題点が見えてくるようになりますし、同じ問題が繰り返し生じないようにするためには、どうしたらよいのかということを真剣に考えるようになります。

たとえば、本来は支払う必要のない賠償請求項目について、その支払い義務の有無についてあまり深く検討することなく支払ってしまっていたという事案を経験すれば、そうした事態が再発しないよう、社内研修や全社回覧を通じたヨコ展開や、事業部の役員との意見交換会も積極的に行うようにしました。

また、キャッシュアウトの最小化を図るべく、全社で付保している損害保険の利用を促進するための説明会なども毎年実施するようにしました。

さらに、与信面での相談があれば、自分の人脈を使ってファイナンスの道筋をつけることも行いました。

このように、一つの相談について、その相談の解決だけにとどめることなく、ある程度汎用性を高めた内容に加工したうえで、他の関係部門にもヨコ展開するような仕組みを整える動きや、法務の仕事を超えるような動きまで躊躇なく行うようになりました。

自分の動きが会社の利益を左右するという実感が得やすい会社規模感や、まだまだ刈り取るべき問題や課題が残っているという環境が、自らの行動に影響を与えたものと考えられます。

こうした動きを続けていると、営業からビジネス形成段階からの関与も期待されるようになってきますので、いわゆる「受け身」の仕事から完全に脱却した形で事業に関われるようになってきます。

このようになれば、もはや単なるルーチンではありませんし、上司に停滞感を与えることもなくなるのではないかと思われます。

まとめ

法務の仕事は、基本的に「課題先行型」であり「受け身」の仕事であることは否定できません。

ただ、それに甘んじて1件1件の相談に終始しているようでは十分な付加価値の提供にはなりません。これでは、弁護士などの外部機関を安く使えば済む話になってしまいます。

法務部には日々多くの相談が持ち込まれます。

そういう点で、法務部はいわば「その企業の問題や課題の集積場」になっているといえます。

とすれば、法務部には、そこで得られた知見を社内の多くの関係者にわかりやすく周知することで、リスク発生の最小化と、発生してしまったリスクへの適切な対応体制の整備が求められているといえます。

秘密保持については十分配慮が必要であるものの、こうした役割であることを十分理解したうえで、事業に潜む問題や課題の抜本的な解決を支援していく動きができれば、法務部の上司はもとより、現場の役員や従業員から信頼される法務部員に成長することができるものと私は考えます。

本項は以上のとおりです。

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