発明の共有化を回避する工夫

個別事案への対応事例

ここでは、以下のような事例を検討してみたいと思います。

自社の新しい技術の実証実験をする際に、客先の工場内にある設備を利用させてもらうことにした。実証実験はよい結果が得られ、同時に発明が得られたことから、自社で独自に出願しようとしていたところ、当該客先から「その発明は共有となるのでは?」と主張されてしまった。

法務部の担当者と法務部長の会話という形で検討していきます。

法務担当者
法務担当者

新機種を客先の工場に持ち込んで実験させてもらうというケースは、よくありますよね。場所を貸しただけで、発明に何ら貢献していないのに、このような主張がされてしまうことがあるのですね…。

法務部長
法務部長

発明が得られた場合の取り決めをしていないと、こういうことを主張されてしまうリスクがあるよね。

法務担当者
法務担当者

でも、場所を貸してもらう立場なのに、発明の権利の帰属などの細かいことを最初から取り決めることは難しいんじゃないでしょうか?

新機種をその会社に買ってもらえることも期待してのことだとも思うので、より難しいですよね。

法務部長
法務部長

権利関係の話がしにくいのであれば、他にどのような方法を取れば、客先と揉めずに済むかな?

法務担当者
法務担当者

客先がそのようなことを言うということは、客先としても、その発明に貢献したという意識が生じているからですよね…。そうした意識が生じにくいような取引形態にすればいいということだから…。

法務部長
法務部長

もう答えは出ているんじゃない?

さて、上のやり取りを見て、どのような方法が思いついたでしょうか。

一つの方法としては、客先の設備を「有償」で借りるというものが考えられます。

具体的には、例えば「設備の有償借受契約」を締結するという方法が考えられます。

有償で借り受けるのであれば、客先への「借り」は生じませんので、客先からこうした主張をされてしまうリスクを小さくすることができると思われます。

客先としても、場所と設備を貸すことに対する対価を得ていますので、発明の権利を得ることによる対価の取得への興味は小さくなるのではないでしょうか。

有償契約で支払った対価は、当該客先へ当該新機種を販売する際に上乗せすることも可能ですので、十分回収が可能かと思われます。

また、こうした有償契約が難しいという場合は、新機種の販売の際の「値引き」を約束しておくという方法もあるかもしれません。新機種で価格も決まっていないという状況では、客先としても値引きされたのか否かがよくわからないと感じるかもしれませんが、売る側からしたら、そこをうまく利用することができるのではないかと考えられます。

場所と設備を借りた客先と権利を共有することになってしまえば、当該客先以外の他社への販売時の足かせになってしまうリスクも生じますので、権利を絶対的に独占しなければならないという場合は、上のような工夫を営業には提案していく必要があると考えます。

本項は以上のとおりです。

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