先方提示の定型契約書に対する修正ポリシー
この記事でお伝えしたいことは以下のとおりです。
以前にも同様の指摘をさせて頂いていますが(https://coaching888.com/shuuseisahou/)、最近また同様の指摘が増えてきているため、視点を少し変えてまとめてみます。
あくまで「先方提示の定型契約書」についての指摘になりますが、私は、先方が自社のひな型として提示してきた契約書は「できるだけ尊重」し「修正依頼もできるだけ行わない」という方針をとっています。
特に、いわゆる「誤字脱字」については、契約上の効力に影響がない限り「一切指摘しない」ことにしています。
これには反論もあると思います。
ただ、この方針を採用した結果、契約締結の実務が非常にスムーズに回るようになりました。また、そうした方針に沿って進めた結果として生じてしまった契約上のもめごとも一切経験していません。
過去に私が経験したこと
私が10年以上前に在籍していた会社の法務部では、先方書式に対しても「誤字脱字の指摘」や「自社が好む表現と異なるものの修正依頼」や「自社ポリシーに合わない条項の修正依頼」を容赦なく行っていました。
これにより何が起きたか?
無駄な契約書のキャッチボールの時間が生じた結果として取引の進捗が遅れてしまい、本来その期中に入るべきであった数字に影響を及ぼすようになりました。これは多くの営業部長から指摘を受けてきたことで、私自身も当時の上司である法務部長に対し「無駄な指摘は省き、できるだけ早く契約締結に進んで、取引を開始させるべきでは?」という指摘をしてきましたが、これが聞き入れられることはありませんでした。
先日も先方から自社の定型書式に対し「容赦ない(趣味の世界の)文言修正依頼」がありました。
元の文言でも何ら問題ない表現を、ある意味「契約書らしい(旧来の)表現」に変更してほしい、という内容でした。
こうした依頼を受けた側はどのように感じるか?
一言で言えば「失礼なやつらだな・・・」というものです。
自社のひな型は自社のポリシーに沿って法務部のメンバーや現場の担当者らが知恵を出し合って作成したもので、各社にこだわりがあります。
その表現方法が各社各様になるのは当然のことであって、自社のひな型との違いや、旧来の契約書の表現との違いが生じるのは当たり前のことといえます。多少文言の不統一感があったとしても、それは相手方企業の多くの知見が盛り込まれた力作なのです。
これに対し、自社の「趣味」を押し付けてみても、何ら自社のリスクに影響は生じませんし、この押し付けを受けた側は「あーまたかよ。無駄な時間を使わせるなよ」と思いながらも、さっさと片づけた方が早期の利益アップにつながるという合理的な判断のもとで、受け入れてしまっているというのが実態です。
この修正が受け入れられた側は「やったぜ!自社の表現のほうが優れていると上場企業の法務部に判断されたぜ!」といった感じなのでしょうか。
実際にはこうした些末な指摘をしてくる法務部は、相手方からは完全にバカにされていることに早く気が付くべきです。
先方提示の契約書はできる限り尊重+契約上の効力に影響しないものはそのまま放置
たしかに、誤字脱字のない契約書は美しいと思います。また、より洗練されている(と自分が考える)表現に変更したい気持ちもよくわかります。
また、それを歓迎する取引先もあるかもしれませんし、契約書をきちんと法務部として読んでいることを営業にアピールしたい(何も指摘せずにOKにしてしまうことは何となく自分のプレセンスを示せない感じがしていやだ)と感じる法務部員もいるかもしれません。
ただ、その考え(こだわり)は、営業の現場からは全く求められていませんし、ひな型の修正依頼を受けた側もいい気持ちがするはずがありません。むしろ不快な気持ちになる場合が多いはずです。
自社が絶対に守りたい権利が侵害される可能性のある条項は何がなんでも死守すべきですが、そうでない場合は、先方提示の契約書はできるだけ尊重して、契約締結をできるだけ早く実現できるよう努めるべきです。
あくまで先方が自社の定型書式として提示してきた契約書(特に「取引基本契約書」や「秘密保持契約書」が典型的な契約書)についての話ではありますが、こうした先方提示の定型書式については、一から内容を検討し起案して先方とキャッチボールする契約書とは異なる配慮が必要であるという点は私が長年法務部で仕事をしていく中で感じたことですし、ポリシーでもあります。
本項は以上のとおりです。
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