個別契約に潜むリスク

個別契約書

ここでは、個別契約、例えば「個別製品の売買契約書」「仕様書」「注文書・請書」といった日々の受発注の中で交わされる契約書に潜むリスクについて、検討してみたいと思います。

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最近増えてきた手法

最近、営業からの相談で、

「注文書の下欄や裏面に損害賠償云々って書かれているんだけど、ちょっと見てみてくれない?」

といったものが増えてきました。

確認してみると、注文書の下欄にシラっと次のようなことが書かれていました。

本製品に関連して生じた損害は、期限の定めなく、すべて貴社にて負担する。

基本契約書等にこうした厳しい内容が書かれていれば、法務部の審査の際に指摘が入り、変更交渉などが行われるはずです。

ところが、注文書・請書については、法務部で1件1件すべてチェックしていくというのは一般的ではありません。

また、注文書・請書の処理は、事業部の担当もアシスタントに委任することが多いことから、事業部の担当自身の目にも止まりにくいという傾向にあります。

注文書・請書は、基本契約書に優先する個別契約の典型ですので、この注文書がそのまま流れてしまえば、この厳しい条項をそのまま受け入れたことになってしまいます。

注文書・請書の内容は法務部や事業部の審査がされずにそのまま流れることが多いという点に目をつけて、注文書に自社に有利な条項を潜り込ませることで、交渉なく有利な条項を確保するというやり方です。

こうしたやり方を否定はしませんし、これも交渉を有利に運ぶための工夫なのだろうとは理解ができるのですが、なんとなくズルいやり方だなとも感じてしまいます。

とはいえ、こうしたやり方をしてくる企業があるということを知ったうえで、自社でもきちんとこれに対応できるような体制を整える必要があります。

対応策

上記のような手法をとってきたのは、名の知れた一部上場企業でした。こうした企業からの注文書であっても、完全に信頼しきってしまうのは危険なことであることを痛感しました。

一方で、すべての注文書・請書を法務部がチェックするというのは、現実的ではないように思われます。

そこで、当初は、注文書・請書の中に、厳しい賠償条項などが盛り込まれていないかのチェックを営業の担当者にお願いし、あやしいものがあれば、法務部に相談してもらう、という方法を考えました。

ただ、この方法ですと、営業の負担が大きいと感じました。あやしいか、あやしくないかの判断を営業自身が行うことは、そう容易なことではありません。

そこで、もっとシンプルに次のようなルールを社内で周知することにしました。

「製品名」「スペック」「金額」といった、いつもの注文書に書かれているとは違う内容が少しでも書かれていれば、法務部に相談してください。

要は、いつもの注文書とは違うなと感じたものについては、どんどん法務部にまわしてください、というものです。この程度であれば、営業としても迷いは生じないと思われます。

この社内周知により、週に1回から2回程度、こうした注文書記載の条項に関する相談がくるようになりました。

実際に見てみると、上記のような厳しい賠償条項が盛り込まれているようなケースは多くはなく、通常の基本契約に盛り込まれるような一般条項が付加されている程度のものが多いといえます。

ただ、いくつかの企業からの注文書で、変更交渉が必要なものを発見することができましたので、こうした社内周知は必要であったと感じています。

ところで、こうした注文書段階で自社に有利な条項を追記する方法は、先方の目論見どおり、法務部の審査なく通過してしまえば問題ないのですが、上のように法務部にも回るような仕組みが取られると、注文書の変更交渉が行われることになります。

そうなると何が起きるかというと、注文が止まってしまうのですね。

注文書の内容が受け入れられなければ、モノの出荷はしませんので、発注者側としても困ってしまうのではないかと思うのです。

仮に、上の注文書段階で自社に有利な条項を追記する方法を、先方の法務部が考えて提案したものであるとすれば、現場の購買や営業にとっては、通常のモノの流れの阻害に繋がりますので、迷惑でしかないように感じます。

なんでもかんでも自社に有利な条項を確保すればよいわけではありません。通常の受発注については、スムーズに流れることを重視すべきであって、本当にリスクをコントロールしなければならない案件についてのみ、集中的に有利な条項を確保できるよう交渉するというのがリスク管理の基本だと思われます。

とはいえ、こうした傾向が最近は少し増えてきているので、注意して対応していく必要がありそうです。

本項は以上のとおりです。

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