法務部員のキャリアデザイン

法務とマネジメント

ここでは法務部員のキャリアデザインについてあれこれ触れていきたいと思います。

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2つの選択肢

法務部で働く若手から中堅社員が将来的に目指していく道は、大きく2つに分かれていると思われます。

一つは「法務部のマネージャー」を目指すという道(管理職コース)です。一般的には、

主任(リーダー)⇒ 法務課長 ⇒ 法務部長 ⇒(法務担当)執行役員 ⇒(法務担当)取締役

といったところでしょうか。

もう一つは「法務部の専門職」を目指すという道(専門職コース)です。この場合は、

主任(リーダー)⇒ 法務専門主任(法務専門課長)

といったところになるかと思われます。

概ね30代後半くらいになると、上司からいずれの道を目指すのかについて打診があり、自分のキャリアデザインの選択が迫られるというのが一般的なのかもしれません。

ただ、こうした打診があるのは恵まれた方だと思われます。

こうした打診もなく、そのまま放置されたり、異動になったりするケースも多いと思われます。

私の場合(放置⇒異動⇒転職)

私の場合も、34歳になって法務職に転じ、それから6年間は何の肩書もなく法務の仕事を続け、40歳で経理部への異動を命じられましたので、2つの選択肢が与えられることなく、最後のパターン(放置⇒異動)になりました。

法務職を天職のように感じながら仕事をしてきましたので、通常の異動サイクルに乗せられてしまう前に何とか法務部のマネージャーや専門職の打診を受けようと必死になっていましたが、結局上司からの明確な打診はなく、異動になってしまったという感じでした。

そもそも、管理職コースを選ぶか、専門職コースを選ぶか、という悩みは、その選択肢が与えられて初めて生じるものです。自動的に割り当てられるという会社もあるかもしれませんが、法務部があるような大企業では、成果を出した人にのみ与えられる選択肢だと思われます。

言い換えれば、成果を出せていない人にそうした選択肢が与えられることはありません。放置されるか異動になるかのどちらかになります。

また、大企業における仕事は分業になりますので、大きな成果を出そうにも割り当てられた仕事の中ではそれが難しいという場合もあります。上司や役員の目に留まりやすい仕事を担当できるか否かにもよる部分があるように感じます。

そうした中でも大きな成果を出せる人もいると思いますが、私の場合は、そもそも法務部という組織の在り方や理想が、当時の上司の考え方と大きく異なっていると感じていたこともあり、どうしても窮屈に感じることが多かったように思います。

具体的には、私の出したかった成果は、当該会社の法務部の在り方を「上から目線の形式的法務」から「現場支援型の実践的法務」へ改善する、というものでしたので、現在の法務のカタチを守りたかった上司や役員にとっては邪魔でしかなかったものと思われます。

そうした中で、同世代のメンバーが次の管理職になることが決まり、より一層選択肢が狭まるような感覚にとらわれました。

たとえ法務部での仕事が続けられるとしても、ずっと平社員のままでいることには抵抗感もありましたので、今後の身の振り方を検討しなければならなくなりました。

残された道が法務部の専門職になるというものでしたが、専門職とは名ばかりで、管理職の元で働く平社員のうち専門性がある程度認められた者という位置づけでしかないように思えましたので、自分が理想とする組織作りに主体的に参画できるポジションではないように思われました。法務部からの異動がないという点ではメリットがあるように思われましたが、自分が本当に実現したいことに携わることが難しいという意味ではあまり魅力的には思えなかったのです。

そうした中で、経理部へ異動となり、会計や税務の仕事を1年半経験した段階で、あるスカウト会社から今の会社のポジションを紹介してもらいました。面談の際に自分が実現したい「現場支援型の実践的法務」というものが受け入れられる土壌があることが確認できたため、それまでの閉塞感を打ち破るべく、思い切って転職することを決意しました。

転職後、管理職を引き継いでからは、自分が叶えたかったことを少しづつ実現していくことができています。優秀なメンバーにも恵まれ、充実した日々を送ることができていると感じます。

管理職になることをお勧めする理由

上のような経験を通じて感じたことは、自分が理想とする法務組織を作りたいという熱い思いがあるのであれば、管理職を目指すべきということです。

場合によっては、転職をしてでも管理職を目指すべきであるとさえ感じています。

転職によって管理職というポジションをつかむというのはチートなのではないか?という疑問を感じる方もいるかもしれません。

私自身もそう感じ、また元の会社が本当に素晴らしい会社だったことから、転職などせず、なんとか今の職場で自分の叶えたい理想を叶えていきたいと考えていました。

ただ、外部環境がそれを許さない場合もあります。

ここで、元セレッソ大阪の監督レヴィー・クルピ氏の香川真司選手の移籍に関するインタビューの中にあった言葉をあげてみたいと思います。

『彼の心の中に、『せっかく偉大なクラブに入ったのに、このような形で退団するのは悔しい』という感情があるかもしれない。それは自然な思いであり、間違ってはいない。

しかし、自分が好ましくない状況に置かれ、そのような状況を打開するのに自力よりも他力が重要である場合、環境を変えることは最良の選択でありうる。また、それは決して恥ずかしいことではない。

フットボーラーのキャリアは短い。時間を無駄にするべきではない』

レヴィー・クルピ

実はこのクルピ氏の言葉は転職した後に出会ったものでしたが、転職を迷っていた当時に、この言葉に出会っていれば、もっと早い決断につながっていたかもしれません。

拙速な判断は慎むべきですが、自分が置かれている状況を打開するためには、環境を変えることが最良の選択になることがありうるということを、今は実感しています。

ところで、本題に戻りますが、管理職を目指すべきと感じた理由は以下の3つです。

1.組織形成・判断・予算などにおいて大きな裁量が得られること

管理職になることで、自分が理想とする法務部のポリシー、判断基準、役割分担、システム導入、セミナー参加、部下の教育方針、人材採用、勤怠管理、予算策定、書籍購入などから雰囲気づくりに至るまで、すべての判断を任せてもらえることになります。

自分が組織の方向性を決めるわけですから、日々の判断局面において迷いが生じることはありません。かつて悩まされた「課長と部長の判断が異なることによる板挟み」などといった状況も生じません。

その裁量の分だけ責任も負わされるのではないか?という不安を感じる方もいるかと思いますが、法務部のマネージャーの負う責任は、私がかつて所属した経理部のマネージャーや営業部のマネージャーの負う責任とは異なり、限定されたものだと思われます。

複数の部門を経験された方であればわかると思いますが、法務部の判断はそのまま会社としての最終判断になるわけではありません。あくまで、会社としての最終判断を適正に行うための情報提供を担っているだけといえます。また、法務部の判断においては、経理部の判断のように明確に数字となって現れるものではない分、明確な誤りというものが見えにくいように感じます。こうした意味でも、法務部のマネージャーが負う責任というものは、そう重くはないのではないかと感じています。もちろん、社内での発言力の大きさから迂闊な発言は慎む必要がありますが、最終的な責任を負うポジションではないという安心感もあって、マネージャーというポジションに立った後でも、比較的自由な発言が許されるという、極めて特異なポジションであるように感じます。要は「そんなに心配する必要はない」ということです。

2.多くの案件の判断を通じて実力を伸ばすことができること

元の会社で多くのことを教えて頂いた上司が言っていた言葉で印象に残るものがあります。

「課長になると、本当に伸びるからね」

マネージャーになると、自分の担当する案件だけでなく、部下の担当する案件も含めて全ての案件について、その判断が求められることになります。法務力は数をこなすことで磨かれる部分も大きいと思われますので、1つの企業の相談案件を一手に適時適切に判断していくという経験は、実力をどんどん伸ばすことにつながります。

また、相談内容も、企業秘密に属するものや、投資案件に係るものなど、重要案件への関わりも増えてきます。

さらに、相談相手も、役員や幹部クラスが多くなってきます。相手は忙しい人たちですから、シンプルでわかりやすい回答を短時間で行っていく必要がありますので、回答にも工夫をしていく必要がでてきます。

こうした経験を数多くできるポジションが管理職であると思われます。

上で挙げたかつての上司の言葉を、管理職になった今、強く実感しています。

3.自分の市場価値がより高まること

一部上場企業の法務部の課長や部長にまでなると、自身のブランド力が高まりますので、そこからの更なるステップアップが楽になるように思われます。

法務課長を経験した方が、スタートアップ企業の役員や、伝統ある中堅企業の役員に転じたという例を複数見てきていますので、法務のマネージャーというブランドは市場において相当高い評価が得られているものと思われます。

自分自身も、転職サイトの登録はまだ残していますので、多くの引き合いを頂きます。中には驚くような案件もあって、気持ちが揺れることもありました。

不確実性の時代などと言われ、かつてないほど先が見えない時代に突入している以上、この先、自社に何が起こるかはわかりません。自分の価値やブランドをできる限り高めておくことが必要不可欠であると思われます。

どの企業に行っても、今の自分の実力で勝負できるという自信を身につけることができれば、ある程度安心して日々を過ごすことができるようになると思います。

管理職になることは、そうした自信を身につける近道であると私は感じています。

まとめ

以上、自分の経験をふまえて、いろいろ書いてきました。

管理職にならなくても、上司の性格や上司との良好な関係を維持できれば、組織や業務の改善を行うことは可能です。私自身、今の組織のメンバーに対しては多くの裁量を与えていますので、平社員のままで組織や業務改善という経験を積むことができていると思われます。

私自身は、早いうちからこうした経験を積んでいくことが何より大切であると感じています。行動して失敗した人と行動せずに無難に進めた人がいたら、私は行動して失敗した人の方を評価します。経験を得た人の方が絶対に強いからです。

ただ、どの企業の管理職も同じような考えを持っているわけではありません。かつての私のように、どうしても窮屈な思いから抜け出ることができないケースもあると思います。

その場合は、そこに無理にとどまるのではなく、管理職というポジションを得やすい企業へ転じるという方法もありうると思われます。

大企業からの転職においては、一時的には多少の待遇の違いは生じてしまう可能性もありますが、最終的に得られる法務力は、早くから管理職に就いた人とそうでない人では、大きな差が生じてくるところです。早くから管理職に就いて力を磨き、そこでまた大企業やスタートアップ企業への転職を図るという方法もまたありうる選択肢かと思われます。

ポジションが期待できない今の職場で悶々としているのではなく、環境を変えてでも管理職を目指すという方法は、私自身の経験からぜひおススメできるところです。

同じような悩みを抱えている方がいらっしゃるようでしたら、ご相談ください。

本項は以上のとおりです。

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