法務部へ相談する際の敷居の高さ
法務への相談の「敷居」を下げるという課題は、法務部の組織運営の中で永遠の課題のようになっています。
ここでいう「敷居」の意味は2つあると考えています。
一つは、単純に法務部の「ヒト」に起因する敷居です。
もう一つは、法務相談時の「面倒なルール」に起因する敷居です。
法務部のヒトに起因する敷居
前者については、もっぱら「法務のヒトのとっつきにくさ」によるところが多いように思われます。
これはもう、そのヒトのキャラクターによるものですので、その課題の解決策は「採用方針の変更」によるしかないのかもしれません。
経営法友会のセミナーなどに行くとわかるのですが、10年前と比べ明らかに女性が増えたと思われますし、また懇親会などで話をしてみても、若手の法務部員の方はみな話上手でフレンドリーです。
このことは、上で指摘した課題を解決すべく、各企業が法務部の採用方針を変えてきたことによるものと思われます。
そもそも、法務部は社内のコンサルタントであって、相談窓口ですので、相談しにくいキャラクターの人を置く理由は全くありません。
人の採用に際しては、法令の知識や、弁護士資格などよりも、とにかく「相談しやすいキャラクターかどうか」を重視するべきであると感じます。
法務部は社内の人から相談されて初めて成り立つ部門ですので、いかに相談しやすい雰囲気を作れるかが、法務部の組織を作る際のポイントになると考えます。
法務相談時の「面倒な社内ルール」に起因する敷居
上に述べたとおり、法務部は「気軽に相談できるところ」であるべきです。
ところが、企業によっては、そうした位置づけであることを大きく阻害するような「面倒な社内ルール」を設定してしまっている場合があります。
具体的には、法務へ相談する際のルールが「契約審査規程」として厳格に定められており、法務相談専用の「契約審査申請書」に必要事項を書き込み、課長、部長のの押印をもらったうえで、ようやく相談ができるようになる、といったルールです。
実際、私もこうしたルールのある企業に所属していました。
もちろん、このルールの中でしか一切相談してはならない、というものではありませんでしたが、具体的な契約書や取引の相談となった場合は、このルールに乗せて相談してくださいとお願いせざるを得ませんでした。
こうした書面を用意するだけでも時間がかかるうえに、申請書が法務部へ届いてからも、法務担当者による確認、回答の書面作成、法務課長の赤入れと承認、法務部長の赤入れと承認を経て、ようやく営業の手元に相談への回答が届くことになります。
このような仕組みですと、どうしてもスピードに欠けることになります。
特にスピードが要求される「製品の売り込みに際してのNDA」の相談であっても、その回答まで1週間以上を要するケースもあり、現場からはひどく評判の悪い仕組みになっていました。
確かに、上司全員のお眼鏡にかなった見解が完成して初めて正式な回答が可能になる、という理想を追求するのであれば、こうしたやり方になるのかもしれません。
ただ、こうしたやり方は、いわゆる「統制」という側面に寄りすぎており、本来の法務部の役割である「現場の支援」という側面には十分貢献できていない(何なら邪魔しているだけ)ではないかと日々感じていました。
また、契約審査申請書に案件の内容を事前に詳しく書いて申請してもらうというスタイルは、法務担当者の判断を誤らせる可能性すらあると感じています。
なぜなら、このスタイルを取ると、法務担当者がサボる可能性があるからです。
具体的には、法務担当者がその書面から事案の内容を把握できたつもりになってしまいますので、担当者から細かな背景事情などを聞くことなく、その書面の情報だけから表面的な回答を作成してしまうような動きになりやすいといえるからです。
そのような表面的な対応では、本来気づくべきであった本質的なリスクを見落とす可能性もあり、また現場もそれを見抜きますので、法務という組織への信頼を喪失することにも繋がりかねないと感じています。
上で挙げた話に戻りますが、本当に急いでいる案件がある場合、営業は、こうした厳格なルールではなく「裏ルート」での相談を試みようとします。
具体的には、営業担当から「お前個人の判断でいいから、この契約内容についてコメントをくれ。あとは営業で判断して進めるから」といった形で相談がくるようになります。
そうなると、法務担当者としては、営業担当に貢献したいという気持ちの一方で、社内ルールに反する形での対応になってしまうというジレンマを抱えることになってしまいます。
このように、厳格な社内ルールが法務部への相談の大きな敷居となっているケースは多いのではないかと感じます。
では、どのようにしたら、そうした敷居が取り除かれるのでしょうか。
敷居を取り除くためのシンプルな方法
今の会社では、契約審査規程や契約審査申請書のような書面を作成し提出するといったルールは一切存在せず、法務への相談は、電話でもメールでも何でも構わないというスタイルを採用しています。
一番多いパターンはメールによる相談です。
メールによる相談に決まったフォームはありません。細かな背景を書いてきてくれる方もいれば、何も書かずに「内容チェックお願いします」といった程度のコメントと先方作成の契約書ファイルだけ添付して送信してくる方もいます。
メールを受信後、内容をざっと確認のうえ、相談者と面談か電話で取引の背景などについて打ち合わせをします。こうした打ち合わせを行わずに審査を進めてしまうケースもありますが(例えば、派遣契約や産廃契約や反社覚書などの定形的な契約フォームである場合や、打ち合わせが不要なほどメールに細かな背景などが説明されている場合など)、こちらが考える基礎事情に誤りがないよう、原則相談者と話をしてから判断するというポリシーは崩していません。
自由にいつでも何でもどんな形でも構いませんので相談してきてください、というスタンスを社内のポータルサイトで示し、いわば「よろず相談窓口」としての法務部を社内にアピールするようにしています。
社内で相談しようと思ったときに、どこへ相談したらいいかわからないようなものについては、まず法務部へ相談してください、という「ハブ機能」もアピールしています。
相談を受けた法務担当者は、自分でわかるものについては、自分の判断でどんどん回答していきます。この場合、事前に上司に相談する必要はありません。
自分が対応したことがなく、回答に自信が持てないものについてのみ、上司に相談するというスタイルです。
相談者への回答は、相談者の上司と、法務部のメンバーに写しを入れて、メールで回答します。
(打ち合わせで回答済みのものについても、情報シェアのため、メールで改めて回答することをルールにしています。そのメールは、現在導入している契約管理システムへ案件ごとに自動格納されるため、あとから振り返ることも可能になっています)
法務部からの回答のメールの写しに相談者の上司を入れることで、相談内容と回答内容を相談者が上司に報告する手間も省けますし、相談者の上司においても、そのメールを見て気になるところがあれば、すぐに部下(相談者)や法務部に確認することができます。
法務部の上司においても、法務担当者から相談者への回答内容に少しでも気になるところがあれば、すぐにフォローすることができます。
こうした方法をとれば、相談者側にとっては、書面作成や上司の押印取得の手間もなく、スピーディーな回答が得られる一方、法務担当者側にとっても、経験を積めば積むほど、自分の裁量で回答できる範囲が広がっていきますので、仕事がどんどん楽しくなっています。
また、相談者も、面倒な手続きが必要ないため、ちょっと迷えばすぐに法務部へ聞いてみようという気持ちになります。
かつては、今の会社にも、私が前にいた企業のように事前に相談内容を書面にまとめて法務部へ相談するといった面倒な手続きが存在したようですが、今はそうした面倒なことはすべて取り払われています。
なお、こうした方法で進めようとする場合、契約取り交わしの決裁を書面をもって確認するというルールは採用しにくくなります。
そこで、契約取り交わしの決裁については、決裁をしたことの書面をわざわざ作るのではなく、最終的に契約書へサインしたことをもって決裁をしたものとする、というように割り切って解釈するようにしています。
こうした柔軟な解釈を取ろうとすると、厳格な契約管理規程のようなものは邪魔になりますので、あえて作らないようにしています。形式ではなく、実質を重視するという方針によるものです。
ところで、こうしたシンプルな相談方法を採用すると法務部へ情報がどんどん集まるようになります。
この数年間で相談件数がざっと3倍になりました。
これを負担とみるか否かは判断が分かれるところですが、法務部へ情報が集まることで、多くのケースへの対応事例が蓄積されますので、我々法務担当の経験値はどんどん上がっていきますし、会社が抱えるリスクの低減にも広く貢献できるようになります。
このように集まってきた事案への対応については、営業の担当取締役へ四半期ごとに報告する場を設けるとともに、毎期末には、各事案をもとにした勉強会という形で、営業に広くシェアするようにし、多くのケースを疑似体験してもらうような仕組みも構築しています。
まとめ
以上をまとめると、次のようになります。
この項目は以上のとおりです。
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