契約書を起案する際の基本作法

契約書起案の作法

ここでは、現場からの依頼で「自社で契約書を起案する際の基本作法」についてまとめていきたいと思います。

スポンサーリンク

自社が過去に取り交わしてきた契約書の書式を尊重する

まず、大前提として「自社がそれまでに取り交わしてきた契約書の書式をできる限り尊重するべき」という作法について触れたいと思います。

契約書を起案する際には、一から契約条項を起案していくのは非効率です。

そのため、通常は、過去に自社が取り交わしてきた(起案してきた)契約書をたたき台として使うことになります(どれだけ経験を積んだ人であっても、必ずこの方法で起案しています。新人の法務担当の方も安心してこの方法を採用してください)

その際には、必ず「自社が過去に起案し締結した契約書」のファイルを使用するようにしましょう。

その理由は「自社が過去に起案し締結した契約書は自社の契約ポリシーの集約であるため」です。

同じ種類の契約書でも、各社の契約書を見比べてみると、条項の規定ぶりには必ず差異があります。

例えば、いわゆる「損害賠償」の条項にしても、

「甲は乙に対し賠償義務を負う

と規定する場合と、

「乙は甲に対し損害の賠償を請求できる

と規定する場合とでは、その賠償義務を負う範囲の解釈に違いが生じてきます。

自社の契約ポリシーが下の規定方法(=権利として定める)であるにもかかわらず、上の規定方法(=義務として定める)を採用したたたき台を使用してしまうと、自社の契約ポリシーに反する契約書ができあがってしまいます。

自社で起案する契約書に対しては、他社の契約書を修正する場合とは異なり、法務部の上司も細かなところまでチェックが入ります。上司からの修正指示を最小化するという意味でも、最初から自社の契約ポリシーに合ったひな型をたたき台とするべきであると考えます。

また、少し抽象的な話になりますが、契約書には「その会社らしさ」が現れるものです。法務部の諸先輩方は、そうした「さしさ」のようなものを尊重してほしいと感じるものですので、そういう意味でも、過去の契約書を尊重して起案するという方法はオススメできるところです。

あまりにも斬新なスタイルの契約書を起案してしまうと、その内容がいかにいい内容であっても、上司に対しては「なんかウチらしくないな」という印象を与えることから、スムーズな承認が得られにくいようにも思われます。法務部は組織として動いています。上司の承認をスムーズに得るための戦略という意味でも、こうした配慮が重要であったりすることも知っておいた方がよいと思われます。

中途採用で法務部へ来た人が元の会社のスタイルをそのまま持ち込んで失敗したケースを私は多数見てきています。

なお、市販の契約書集をたたき台とすることも上と同様のことが言えますので、注意が必要です。

上の内容は、自社の書式の改善まで否定するものではありません。あくまで、自社の契約ポリシーを無視した形での起案は避けるべきであることをお伝えするものです。たたき台や定形書式に改善が必要な部分があれば、むしろどんどん指摘していきましょう。

誰でも読める文言を使う

次に取り上げる基本作法は、

「誰でも読める文言を使う」

というものです。です。

例えば、次の文言を自信をもって読めるでしょうか。

「次の各号の一に該当する場合は~」

この文言は、「解除」「秘密保持契約の除外規定」などによく出てきます。

この「一」という文言について「「一つに」の間違いではないか?」とか「なんて読むの?」という質問がよくあります。

「いちに」ではなく「いつに」という読み方をするのが一般的であり、契約書や法令などにはよくでてくるものです。

法務部の人にとっては、(法令などで使われることが多いため)「一に」といった文言を使うことにあまり抵抗はないのですが、慣れない人にとっては読みにくい文言であるといえます。

そこで、私は、この場合「一に」ではなく「いずれかに」という文言を使うようにしています。

意味は変わりませんし、ひらがなを使えますので、読み間違いや、誤りと認識されることもありません。

「契約書は極力ユーザーフレンドリーであるべき」というのが当方のポリシーですので、「プロっぽい文言」と「読みやすい文言」があれば、迷わず後者を選ぶようにしています。

法律用語にこだわらない

上の内容とも重なる部分がある指摘になりますが、あまり法律用語にこだわらず、相手方からの受け入れ可能性の高そうな文言を選んで起案するという考え方も、ここで紹介したいと思います。

例えば、取引基本契約書によく定められる条項として次のようなものがあります。

「甲は、必要に応じて、甲における目的物の製造過程の品質保証体制を確認するために、乙に通知のうえ、乙の事務所等に立ち入り、検査等を行うことができる。」

このような条項が提示された場合、よくある修正方法は「通知」を「承諾」にするというものです(「乙の承諾を得たうえ」と修正)。

この修正案でも相手方から受け入れられることが多いのですが、「承諾が得られない限り検査等を行えない以上、修正には応じられない」という回答をもらうこともあります。

ここで使われている「通知」「承諾」は、民法で使われている用語であり、法律に詳しければ詳しいほどこの用語を使うことにこだわってしまいます。

しかし、このような条項においては、「通知」・「承諾」いずれの文言を使っても、双方に対等な内容にはならないように思われます。

「通知」とすれば一方的な通知で事務所に入ってこられては困る、という話になりますし、「承諾」とすればどうしても検査等を行わなければならない合理的な理由がある場合でも、相手方の承諾が得られない限り中には入れないということになってしまい、どうもうまくありません。

そこで、このような場面では法律用語である「通知」や「承諾」といった文言は捨ててしまい、いわば日常用語である「連絡」という文言を採用します。

「連絡」という文言は法律用語ではありませんが、「通知」や「承諾」のように一方の都合により結果が左右されてしまう強い文言ではなく、連絡をした際に、双方にとって都合のいい検査日程などを調整することができるといった印象を持たせることができます。また、実際にも連絡をとって都合を聞くことになることが多いといえますので、実態にも合致していると考えられます。

この文言はある名門企業の取引基本契約書で採用されていた文言なのですが、非常にうまいと感じましたし、あまり法律用語にこだわる必要はないんだということを知りました。

契約担当者は契約文言の選択に強いこだわりをもって取り組むべきですが、いわゆる法律用語にこだわることなく、自由に文言を選択していいんだという気持ちをもって対応すれば、よりいい内容の契約書を起案することができるようになると考えています。

不備・誤字脱字をなくすための工夫

契約書を起案する際に、誤字・脱字や主語述語の不備等があると、相談者の信頼を損ねることになります。

私もかつて、本来「甲」とすべきところを「乙」としてしまっていて、そのことが顧客から指摘されるという恥ずかしい失敗をしてしまったことがあり、それ以来、色々工夫をしてきました。

まず、当たり前のことのようですが「5W1Hを意識して何度も読み直す」ことが基本です。これまでの経験上、読み直す回数が多ければ多いほど、間違いはなくなります。

また、「起案後1日おいてから読み直す」ということもよくやります。起案後すぐのチェックでは見つからなかった誤字・脱字が、次の日の朝すっきりした頭で読み直すと見つかるということもよくあります。

さらに、これが一番効果があると思うのですが、「契約書を起案する際のドラフトをギリギリまで大きくする」という方法です。私の場合、フォントは「10.5」とし、その状態でドラフトを「130%」に拡大して起案しています。

字が大きくなれば、それだけ間違いにも気が付きやすくなるだろうという単純な発想ですが、一番効果を実感しています。

客観的に判断しうる文言を使う

自社が販売した機械のメンテナンス契約書に定める自社の責任に関する条項について考えてみます。

次の条項を見てください。

「メンテナンス業務が不十分な場合には、乙(=自社)の責任で対処する」

一見、特に問題ないようにも感じられますが、ここでいう「不十分」という文言は、主観的な判断に馴染む定性的な文言であるため、客観的な判断のための基準としては機能しにくいと思われます。

例えば、顧客と合意済みの仕様書等の内容を全て実施し、完了報告書を提示したにもかかわらず、顧客側で一方的に「不十分」と感じれば、やり直しを求められてしまう可能性があります。

このような可能性を回避すべく、もっと客観的で、客先との認識にギャップが生じにくい文言への置き換えを検討する必要があります。

そもそもメンテナンス業務の実施項目は、仕様書等に定める内容に限定されています。

とすれば、仕様書等に定める内容をすべて適正に実施すれば、不十分であるといった指摘をされる余地はありません。

以上から考えると、上記の条項においては、上のように「不十分」といった定性的な文言ではなく「不一致」や「不適合」といった客観的な判断に馴染む文言を選択するべきです。

契約書の起案においては、こういった非常に細かい「言葉の選択」が重要になってきます。

常に「客観的な基準として機能するか否か」という観点から、契約書で使う文言の吟味を行う必要があります。

契約書本体と添付書類(別紙等)との整合性に注意する

最後に、細かい指摘になりますが、契約書本体と別紙などの添付書類の整合性については注意を払うようにしましょう。

例えば、添付書類の表題が「別紙」とされているのに、契約書本体では「添付資料」とされている場合、名称をいずれかに統一する、といったものです。

引用されている条項の数字などについても、整合性が取れていない状態のまま契約してしまう例をよく見ます。

整合性が取れていないことをもって契約が無効になるといったことはないのですが、例えば裁判などになった際に、証拠として提出する契約書は、こうした細かい部分がしっかり整合性の取れた内容になっていた方が印象としてよいと思われます。

また、起案時にそうした整合性の取れていないものを相手方に提示してしまうと、その会社のレベル感もその程度として捉えられてしまう可能性もあります

会社の格を示すものでもある契約書においては、こうした細かな部分への配慮も重要になるという点を指摘してこの項目を終えたいと思います。

コメント