法務部の望ましいカタチ

法務の組織作り

今回は「法務部は基本的に”ワントップ型”の組織がよい」という話をしてみます。

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ある企業であった実際のやり取り

私が以前にいた企業の組織形態は次のようなものでした。

専務取締役 ⇒ 法務部長 ⇒ 法務課長 ⇒ 法務担当者

このような組織、具体的には「法務部長」と「法務課長」の双方がいる組織では、部長と課長の方針が完全に一致していれば問題ないのですが、そうでない場合、法務担当者は非常に仕事がやりにくくなります。

たとえば、先方提示の基本契約書の審査をするという場面を考えてみます。

法務担当者が内容を確認したところ、いわゆる「期限の利益の喪失」条項が対等ではなかったため、与信対応を考えて対等な内容の変更案を作成し、法務課長に見てもらいました。

すると、法務課長は、

法務担当者
法務課長

『先方は一部上場でキャッシュリッチな会社だよね。だから与信対応のための変更はいらないんじゃないか?』

と判断したため、法務担当者はそれに沿った変更案に意見書を書き換えました。

ところが、その後法務部長のところで、

法務部長
法務部長

『なぜ期限の利益の喪失条項が対等じゃない条項を見落とすんだ!やり直し!』

という判断が下ったとします。

こうなると、法務担当者としては困ってしまいます。

法務部長の方が立場は上である以上、法務課長に法務部長から言われたことを伝え、期限の利益の喪失条項を対等にするための変更案を復活させたい、と相談します。

そうすると、法務課長からまた、

法務担当者
法務課長

『俺はいらないと思うけどね。形式な判断は意味がないよ。実質的に与信リスクはないと判断できるなら、ムダな交渉を営業担当にはさせたくないね』

といった話をされてしまい、無限ループに巻き込まれる形に陥ります。

こうしたことは、私自身何度も経験し、その中庸をいく意見がないか?と知恵をしぼるという、なんとも意味のない動きを強いられていました。

法務部長と法務課長の意見が割れてしまっている場合、その法務部は組織として完全に機能不全といえます。

どのようにしたらこうした問題を解決できるのでしょうか。

考えうる解決策

アプローチは2つあると思われます。

一つは「法務部長と法務課長の意見のすり合わせを徹底的にやってもらう」という方法です。

例えば、上の例でいえば、期限の利益の喪失条項については、

<方針案1>
先方がどんな会社であっても一律に期限の利益の喪失条項を対等にしてほしいという要望をする
<方針案2>
先方の与信状況に合わせて個別に判断する(与信部門が法務部以外であるなら、そことのすり合わせもしっかり行う)
<方針案3>
期限の利益の喪失条項は事実上機能しないから、対等化のための変更要請は一切行わない

という3つの方針があると思われますが、いずれにするかについては、事前に法務部全体の方針を法務部長と法務課長の間で取り決め、それと決めたものについて法務部員全員に周知しておくという方法です。

こうしたすり合わせがきちんと行われていれば、法務担当者が迷うことはありません。

法務部としての審査基準のようなものを予め法務部内で周知しておけば、法務担当者の迷いは大部分解消されます。

今私がいる組織ではこうした審査基準を少しづつ積み上げている状況ですが、こうした基準が増えれば増えるほど楽になるとメンバーはよく話しています。

ただ、上で挙げたような法務部長と法務課長のやり取りが行われているような職場には、そうした審査基準を作ろうという動きはない場合がほとんどであって、法務担当者からもそうしたすり合わせを提案できるような空気感ではない場合も多いと思われます。

そうなると、法務担当者としてはなんとも厳しい環境での仕事を強いられることになってしまいます。

法務部は人事異動も少ないですから、やり過ごしていれば上司も変わり、環境も変わるだろうという期待を持ちにくいといえますので、難しいところです。

できる社員は「やり過ごす」 (日経ビジネス人文庫)
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そのような環境の場合、もう少し上の立場(取締役など)に掛け合って、組織そのものの見直しを提案するという方法も考えられます。

それが二つ目のアプローチである「組織変更」による方法です。

法務部の中に2つ以上の課(例えば知財課や与信審査課など)を置いている企業では難しいかもしれませんが、法務部長と法務課長の役割がほぼ一致しているような法務部であるなら、思い切って法務部長か法務課長のポジションを廃止してしまうという方法が考えられます。

法務担当者のモチベーションや法務ブランドの維持という観点からは、部としての位置づけのまま法務課長を廃止するという方法の方が望ましいかもしれません。

あるいは「部」という組織ではなく「室」という組織に変更して「法務室長」というポジションを置くという方法も考えられます。一般的に「室」は「室長」のみをワントップとした組織に馴染む(「室」の課長というのはあまり聞かない)と思いますので、課長を置かなくても違和感はありません。

いずれにしても、法務部というはっきりとした判断を示すべき部門において、2名の異なる意見をもった判断権者がいることは、その判断権者が意見のすり合わせができない限り、邪魔でしかありません

ワントップであれば、基本的にその判断権者の方針に従って進めることができますので、法務担当者としてはやりやすくなります。

ワントップとして残すべき人材は、いわゆる「公務員的な一律判断」を重視するタイプではなく「現場の意見をふまえ合理的な落としどころを提案」できるタイプです。

こうしたタイプの人材は、法務担当者の意見もしっかり聞き、より合理的な判断を探ろうとします。

また、現場の意見を徹底的に聞き出したうえで、その状況に合わせた適時適切な提案ができますので、現場の営業からも重宝されます。

法務部は現場の支援チームですので、スムーズな判断を示していくためには、法務部内で意見の食い違いなど生じている場合ではないのです。

もちろん、法務部内での積極的な意見交換は極めて大切です。反対意見を先輩や上司にぶつけ、より合理的な提案ができるよう話し合いをもつことは、法務部において最も重視されることです。

ただ、そうした話し合いの結果、最終的な提案内容を決定する判断権者は一人であるべきです。

二人のトップの意見がまとまらないとか、一人のトップが判断を譲らないといった組織であるなら、会社全体の利益を考えるならば、一人のトップを廃止するという判断もありうる選択肢であると考えています。

理想的な組織

とはいえ、7割は課長になれないなど、ポジションがどんどん削られている状況の中で、法務課長のポジションをなくすという方法は、法務担当者のモチベーションの維持という意味では望ましくないのかもしれません。

上で挙げたとおり、法務部長と法務課長の意見のすり合わせがきちんと行われている組織であるなら、何の問題もありません。

上では審査基準を設けるという話をしましたが、そうした審査基準がない案件においても、都度、法務部長と法務課長が膝詰めで話をし、法務担当者の意見を聞きながら、あるべき提案を検討していくという「当たり前の」動きができていれば、組織をいじる必要などありません

私が担当していた営業部門のある課長は次のようなことを言っていました。

『僕の役割は、営業部長が「こうしたい」と考えることをできる限り実現することだと考えているので・・・』

ちょっとした会話の中で聞いた発言でしたが、本当にそのとおりだと思いました。

その方とその方の部長は非常にいい関係を保っていたと思います。

べったりの関係ではなく、時には厳しい口調で意見したりもするのですが、営業部長もその意見を受け止め尊重しながら、メンバーとしての落としどころを示していく、という場面を何度も見てきました。

こうした組織であれば、法務部長と法務課長というツートップであっても、実質的にはワントップのシンプルな組織が形成できていることになります。

冒頭で「法務部は基本的に”ワントップ型”の組織がよい」という考え方を示しました。

組織そのものをワントップにしてしまう方法は手っ取り早いとは思うものの、それは難しい場合もあると思われますので、いわば「実質的なワントップ組織」を実現するのが現実的であり理想であると思われます。

法務部長と法務課長の関係は非常に難しいのですが、私自身は法務課長においては、上に挙げた営業の発言のとおり、法務部長の実現したいことを常に考え行動することが求められていると思います。

ですので、法務部長の実現したいことがどうしても自分の考える理想とは異なると考えるようなら、それは別の環境へ移ることなどを検討すべきなのかもしれません。

実際、冒頭で挙げた法務課長は、別の上場企業へ転職していきました。現在は法務を含めた管理部門全体を束ねる役員として、自分の理想とする組織を作り上げています。

法務課長にもなれば、正直どこの企業でも引く手あまたです。自身がワントップになって理想的な組織作りを任せてくれる企業もたくさん見つかるはずです。

話が少しそれましたが、法務部という組織は、ワントップが明確な大方針を示し、法務課長を含め各メンバーがそれを実現するために動くというごくシンプルな組織を目指すべき、という提案でした。

本項は以上のとおりです。

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