先方提示の書式の修正における作法

先方書式の修正作法
スポンサーリンク

ある取引先の法務からの変更案

私が経験した契約交渉で次のようなものがありました。

自社の秘密保持契約書のひな型を提示した取引先から、変更案が返信されてきました。

この取引先は、誰もが知る有名企業です。

私達のチームは、極力修正の負担がかからないよう、双方対等の合理的な書式づくりをしてきており、取引先からも修正案をもらうことはあまりなかったので、どこを修正してきたのか大変興味がありました。

ファイルを開いてみてみたところ、以下のような変更案でうめつくされていました。

当社案:「いずれかに該当する・・・」

先方変更案:「一に該当する・・・」に変更するべき

当社案:「・・・する。」

先方変更案:「・・・ものとする。」に変更するべき(5か所にわたりこうした変更がされていた)

当社案:「被告地主義」

先方変更案:「広島地裁」

もっとあるのですが、やめておきます。

いわゆる「趣味」の世界での修正です。

契約上のリスクには何も影響しない部分での変更であったため、当社としても特に異議はなく、そのまま受け入れましたが、なんとも無駄なやり取りに感じ、複雑な気持ちになりました。

あるべき修正姿勢とは?

こうした修正ポリシー、具体的には、いわゆる「フルスペック」での修正(=自社が考えるところの最高の契約書への修正)を第一弾としてぶつけるというポリシーは、よくあります。

実は、私自身も、こうしたポリシーのもとで法務を担当していたことがあります。

どういうポリシーかというと、

1.まずはフルスペックの修正案をぶつけてみる
2.営業に交渉してもらい、交渉結果をフィードバックしてもらう
3.その結果を営業として受け入れられるかを確認する
4.受け入れられないなら、法務が見てどうしても受け入れられないところに絞って再度営業にて交渉する
5.それでも受け入れられなかった場合は、残存する契約上のリスクを法務が指摘し、そのリスクの回避策等も合わせて提案して、営業として対応できるかを判断する
6.そうした回避策が難しいとしても、最終的には営業判断として受け入れられるか判断する

といった長い長い道のりを経て、ようやくサインとすべき、というポリシーです。

一部上場の大手企業の法務部でしたので、こうした余裕のあるポジション・ポリシーで対応できたのだと思います。

そこには、契約を急ぐ必要はない、という法務のポリシーがあったのだと思われます。

しかし、私自身は、上記の1から3はムダなのではないか、と感じるところがありました。

私のポリシーは「先方提示の書式の修正は必要最小限とする」というものです。

些細な部分で気になるところがあっても、リスクに影響しないところは無視して先方の書式のまま受け入れたほうが、先方起案者も気持ちがいいでしょうし、営業の現場も助かります。

我々は事業をやっているのであって、趣味の押しつけあいをしているのではありません

自社の起案方針と異なるからといって、それをすべて変更して先方に提示するという悪しき文化は、もうやめにしてほしいな、というのが長く法務に携わってきた者の率直な気持ちです。

これまでの経験上、上の事例であげた「取引開始段階で取り交わす秘密保持契約」は、名刺代わりの紳士協定といっても言い過ぎではないと考えています。

実質的なリスクはほぼゼロに近いといえますので、必要最小限の内容が整っていさえすれば、多少の不備には目をつぶり、一日でも早く事業を前に進めることを優先していくべ、という考え方が、法務パーソンの中でも一般化していくことを願うばかりです。

コメント